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ITソリューション

制度・組織体制

2019/06/30

ITコスト削減に向けた方法論とその実践 第3回:ITコストを最適化し続けるために

前回は、ITコスト削減の推進方法についてお話ししました。今回は、ITマネジメント体制の整備・確立のお話と、実際に取り組んだITコスト削減の事例をご紹介します。




経営・事業環境は変化の度を速めています。企業における情報システムのあり方や利用形態が、次々に誕生する新たな情報技術およびITサービスによって、大きく変わってきているのです。それに伴って、ホストコンピュータやPC、ブラウザー経由の汎用サービス利用等々の広範囲な選択肢から、自社に本当に必要なシステムやサービスを見極め適切に投資し利用することは、従来の集中型ITマネジメント体制ではますます困難になっています。加えて、利用部門主体での自由選択・自主投資制度では、開発効率の低下や社内での重複機能の増大等の弊害も見られます。社内ITコストが過大な状況とは、「開発導入したシステムを使いきっていない(事業収益でペイできていない)」、「利用度は十分だが過分なツールを導入した(独自性の名の下に贅沢な投資をした)」などの個別案件の積み重ねによるものです。「必要なシステムは適正予算内で導入して役目を終えたらキレイに破棄」が繰り返されていれば、社内には減価償却を終えた「儲かるシステム」が自ずと選別されて残り、新たな投資も行いやすい状況になっているはずです。このようなIT投資における投資収益性を精査・達成する仕組みづくりは、我々人間が減量に取り組む際の「太りにくい体質づくり」のことであると考えていただくとわかりやすいでしょう。


適切なIT投資とは、情報システムの①合目的性、②投資収益性、③開発・運用効率、の3つがバランスよく並び立っている状態を指します。効率よく開発・導入して十分に使い、事業収益に寄与する…というサイクルは、社内の仕組みとして整備しなければなりません。ITマネジメントの組織体制を整備する上での基本要件は、以下のようなものです。


 ■ システム投資に関わる責任主体の分離
  ・「投資対効果の責任」(システムオーナー、ユーザー)と「開発・運用の責任」(開発・運用部門)

 ■ 取引における経済合理性の追求
  ・利用部門と開発・運用部門との間での課金ルールの整備、業績評価への反映、等

 ■ 全社整合性を担保する統率力の整備




ある製造業Y社では、事業の多角化に伴って旧来のIT集中マネジメントが限界を迎えていました。全社視点での企画力が低下し、数多く申請される投資案件の優先順位づけができておらず、多様化・複雑化する利用部門の要請にも応えられなくなっていました。その結果、必要性や投資対効果の検証が不十分なままの投資が多く行われ、開発効率の低下、総予算の拡大、使われないシステムの増大を招くという悪循環に陥っていました。ユーザー部門はそれぞれの必要性に基づいてシステム投資を申請しているため、「ITコストが増えすぎたから」というだけの理由では予算統制には応じようとしません。そこで社内IT全般の調査と評価を行い、いかにムダが多いかの認識を共有するところから始める必要がありました。システムの重複機能の多さの確認や、重要業務でのシステムカバーの貧弱さ等を確認した上でコスト削減を行い、「3年後、5年後にはこの姿を目指す」という共通目標を定義した後、ようやくITの設備投資に関する全社統制が機能するようになりました。ITのスリム化施策実行による約2割の資産圧縮を併せ、調査開始から3年目には予算規模で約4割のITコスト削減を実現しました。


またある流通業Z社は、本社部門に小規模なシステム企画部門のみを有し、開発部門を子会社化していました。しかし実際には、本社企画部門は予算統制のみの管理部門であり、企画立案機能そのものは事業部任せとなっていました。またシステム子会社の業務も協力業者の管理がほとんどで、開発機能は衰える一方でした。数年前に全社基幹業務システムを導入した際、Z社システムの実態を把握しているのはSIベンダーのみだった…という状況だったのです。そのような中、全社的な業績悪化を契機に予算規模縮小が通達された折、本社システム企画部門は途方に暮れることとなりました。まず、Z社では「IT予算=システム企画部予算」であり、その内訳がほぼ人件費のみだったため、縮小予算を達成するには計算上で何割かの人員が退社するしかなかったからです。もはや当時の予算管理制度の下では、ITに係る費用が膨大かつ過大であるとの社内認識はあっても、ITのどこをどうスリム化すればいいかという検討さえままならない状況だったのです。そこで、まずはシステム子会社の予算・業績管理責任をシステム企画部におき、本社-子会社-協力業者間でのカネに関する責任権限の再定義に着手したところ、実に大きなムダがあることが次々と判明し、次年度にいきなり約2割のITコスト削減を実現しました。Z社は引き続き地方支店と事業子会社のITコスト調査に踏み込み、連結ベースでのコスト削減余地を探る計画を立てています。


これら2社の事例でもおわかりいただけるように、対象範囲を広げるほどITコスト削減の可能性は大きいといえます。要諦は、責任を明確化した上で部分最適を目指す部分と全体最適を統制する部分との切り分けにあるといえるでしょう。事業の変化やITの状況に合わせて、ITマネジメント体制自体も常に見直し続けることが重要です。多少の非効率というリスクは覚悟の上で、「攻めるときは攻める」(積極的・重点的に投資する)ことも、中長期的視点でのIT強化のためには必要です。意思を持って機動的に投資できる体制を獲得するためにも、ITコストの見直しと削減には、ぜひ定期的に取組んでいただきたいと考えます。




「業務運営コスト削減」に関するコラムを、3回にわたりお届けしてきました。我々CDIソリューションズの経験に基づいたコスト削減の方策を述べましたが、業種・業態によっては、ここでご紹介していないコスト削減の宝の山が眠っている可能性も大きいと思われます。我々の考え方やアプローチを、貴社独自分野でのコスト削減と競争力強化に向けた取組みに活かしていただければ幸いです。

 

CDIソリューションズ シニアディレクター
森田 克己 (もりた かつみ)

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