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2019/03/05

情報システムの使い方 ~ITが『経営に役立つ』とは何か?~ 第2回:グローバル展開における情報システムインフラの意味

前回のコラムでは、「なぜ情報システムは役に立たないのか」についてお話ししました。 今回はその内容を踏まえ、事業部制を採用している企業がグローバル展開において情報システムインフラを活用し、個別最適志向に基づく事業部の身勝手な行動を抑制した事例をご紹介しながら、「グローバル展開における情報システムインフラの意味」についてお話しします。




A社は海外進出を加速させるため、生産拠点を海外へ展開していく方針を打ち出していました。ところが、事業部制を採用しているA社では、本社よりも個々の事業部が非常に強い決定権を持ち、それらの縦割りで業務が運営されていたため、全社視点で見ると業務効率が極めて悪いように見受けられました。

例えば生産業務では、事業部ごとに生産する製品が違うからという理由で、たとえそれらの製造工程が似通っていても製造ラインを共有するという意識が全くなく、それぞれの事業部独自に工場や設備を構築し続けていました。そのため、A社の主要海外生産拠点である中国では、事業部別に複数の工場が隣接して乱立、アメリカにおいては、ある事業部が業績不振により撤退するタイミングで別の事業部が同地への進出を計画していたにもかかわらず、既存の工場を流用するという意識がないため新たな独自工場を建設してしまう…という有様でした。当然、工場間での人材流用も図られていなかったため、人手に余剰がある工場や生産ラインから人手不足のところへ配置転換するなど、生産効率を下げない全社的な施策は全く行われていない状況だったのです。そのほか受注や調達、物流などの業務についても、全社共通のオペレーションが可能であっても事業部独自で行われており、とても効率的とは言い難い業務運営がなされていました。

こうして、生産プロセスを事業部個別に策定したのまま生産拠点を展開した結果、海外進出に伴う工場の設備投資効率は極めて悪くなっており、また各拠点の管理や統制も事業部個別で行われていたため、ガバナンスの観点でも問題が起きかねない状況に陥っていました。

A社が海外で投資効率を上げるために必要なことは、事業部個別最適ではなく全体最適を根幹にして全業務を行う「標準業務モデル」の構築と、それを強固に維持する仕組の構築、そしてそれらを業務インフラとして備えた、「各事業部が相乗り可能な生産設備・工場」を展開していくことでした。


1.事業部共通の標準業務モデルの構築
事業部に関わらず、共通の業務遂行が可能なオペレーションや管理、統制業務のやり方…「標準業務モデル」を決定します。

2.標準化した業務の情報システムへの実装(情報システム構築)
1で構築した標準業務モデルを、情報システムへ実装します。その際、ローカルルールを作らせないためにも、事業部個別の要件は取り入れないことが定石です。

3.グローバルで標準化業務を維持するための体制・ルールの構築
情報システム稼働後に、個別最適な要件が採用されないようにする仕組を構築します。さらに標準化した業務を維持するために、組織や業績評価制度にもメスを入れます。

4.全社モデルとなる標準業務による業務遂行のパイロット開始
標準業務モデルによる最高の投資効率(設備投資効率/人員投資効率)の実証実験の実施と、モデルへのフィードバックを行います。

5.グローバルでの設備投資とグローバル売上の拡大
全社モデルテンプレートをグローバル展開し、海外での投資効果UPを実践します。


A社では情報システムの導入にあたり、まず事業部横断の標準業務モデル構築に着手しました。具体的には事業部の縦割りで行われていた業務を、

  1. 業務機能ごとに全社共通で行う業務
  2. パターンごとに集約して行う業務
  3. 事業部個別に行う業務

3つに分類し、各々の業務についてパターンごとに共通化を行い、標準業務モデルを構築しました。

続いて、標準化した業務を維持するために業務ごとの責任の所在を明確化し、業務を統括する責任者を配置しました。その責任者は、事業部からのシステムに対する要望を吟味した上で、それらの機能を情報システムへ実装し、全社へ展開するか否かを判断します。すなわち、業務統括責任者がシステム投資の責任を負い、システム改修が全事業部に適応可能か否かという判断基準に基づいて、適応可能でなければ事業部個別要件と判断し、必要以上にシステム改修が行われないようにしたのです。



こうして内部統制を強固にしたA社は、業務に制約をかけながら次々とグローバル展開を推進していきました。中でも、先行して建設された海外の工場に他の事業部が後から進出できるようにしたことによって、不要な工場の乱立防止や採算性のリスク低下を実現させたことと、業務の共通化による全社的な効率化は、A社のグローバル展開を加速させました。

グローバル展開における標準モデルを実装した情報システムは、標準オペレーション・管理・ガバナンスがセットで内包されている仕組であり、それを導入することで業務は標準化された業務フローやルールに則って行われます。したがって、情報システムインフラが全体最適プロセス、共通管理・ガバナンス維持の強制力となり投資効率(設備効率/人員効率)を向上させ、これこそがグローバル展開を加速させる最も重要な要素となったことが、この事例からおわかりいただけたでしょう。



今回のコラムでは、グローバル展開において企業が何を備え、またその備えにおいて情報システムがどのような役割を果たすべきかについてお話ししました。次回は「事業承継・事業継続に対する情報システムの意味」についてお話しします。


CDIソリューションズ シニアディレクター
森田 克己 (もりた かつみ)




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