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ITソリューション

2019/04/19

ITコスト削減に向けた方法論とその実践 第1回:ITコスト増加のメカニズムとコスト削減の考え方

今回のシリーズでは、「ITコスト削減」をテーマとして数回にわたりお届けします。その第1回目は、「ITコストの削減」についてのポイントと考え方についてお話しします。




現代の経営において、「IT」がいかに重要かつ必要であるかは、もはや言うまでもありません。しかし、そのコストの妥当性までは、なかなか的確に認識されていないものです。実際、「我が社の IT は売上や収益にどのくらい貢献しているのか」「我が社の IT コストは果して妥当な水準にあるのか」といった疑問を、多くのマネジメントが抱いています。また「コストを把握できている」という企業でも、「昨年まで基幹システムの再構築を行ったので現在のコスト高は仕方ない」「古いシステムを使い続けるためのメンテナンスや新システムとのインターフェース開発で費用を掛けざるを得ない」ということを理由にして、あるべき姿に対して客観的に「ITコストは妥当である」「現在は高い水準にあるがきちんとコントロールされている」と断言できるケースは稀であると思われます。今や ITは、経営には欠かせません。しかし、その ITを御しきれていない・・・というのが実態なのです。


増え続けるITコスト

まずは、情報システム導入後から発生するコストについてお話ししましょう。下の図は、情報システムの運用・保守費用の増加割合の傾向を示したものです。



情報システムの新規開発に伴い、次年度以降の運用・保守費が確実に増加していることが見てとれます。稼働したシステムそのもののメンテナンスのみならず、他アプリケーションの新システム対応が必要になることから、ITコストは増加し続ける性質をもっていることを改めて認識しておく必要があります。

この情報システムの性格を踏まえて、簡単なシミュレーションを行った結果が下の図です。仮に現在の年度当りの開発コストを維持しても、5年後の IT総コストはおよそ 1.5 倍に膨らみ(パターン1)、ITコストの年間総額を一定に抑えようとした場合には、6年後には新規開発のための費用を掛けることができなくなる事態に陥ります(パターン2)。



たとえば、新規事業のためのアプリケーションシステムに投資した場合、そのコストが事業全体での収益性に照らして妥当なものであるなら、全社視点でのITコストの増加は決して悪いことではありません。しかし「たしかに ITコストは増加したが、それ以上に利益を享受できている」と言い切れるケースは、稀ではないでしょうか。逆に全社視点からの事業コスト統制の下で、コスト増加のいわば割を食って新規投資ができなくなっているのが、多くの企業での実態なのです。社内システム整備の際には、新規開発やシステム間連携といった「作る」側面ばかりに目が行きがちですが、その運用・保守費が確実に増加するのだということを念頭に置いておきましょう。


ITコスト削減に向けた基本的な考え方

では、全社的な事業コストの削減を実現するには、ITを含む新規投資を控えたり、全部門を対象にした「ITコスト」や「業務コスト」を削減したりするしかないのでしょうか。もちろん、それらもコスト削減の一手段ではあります。しかし先に述べたITの特性を踏まえると、既存ITの必要性を検証した上で「ITの廃止・撤去」にも積極的に取り組むべきです。「不要システムが特定され次第、もちろん削減は行っている」との意見もあるでしょうが、にも関わらず全社 ITコストはいつの間にか増加しているものです。

この大きな理由としては社内システムの複雑化・肥大化が挙げられます。例えば次のような理由によって、使われない・利用頻度が低いシステムが存在し続けます。

  • 特定システムが役目を終えた後も、他システムとの連携のために稼働が必要
  • 社内システムを「怖くて触れない」
    - 特に古いシステムを抱える場合にありがちで、開発時のメンバーの退職、改修を繰り返した結果あまりに複雑化している、等
  • 特定業務システムを停止してもハードウェア自体が撤去される訳ではないので「コストは変わらない」あるいは「停止リスクや工数の方が大きい」という理由で稼動を継続
  • 外部委託した運用保守業者の「必要だ」という言葉を検証できずに停止できない
    - 受託業者にとってはシステム撤去=受託業務量の削減になることから、システム停止を認めたがらない場合もある


それぞれの理由に対しては、個別にはいずれも理解の余地があります。しかしITコスト削減を図るためには、このような過去の経緯や個別の事情に切り込むことが必要です。個人が取組むダイエット(肥満解消)は「生活習慣の改善・改革」であると言われますが、ITコスト削減もこれによく似ています。要諦は次の2点に集約されます。

  • いかにあるべきかの視点からムダを排除してIT資産をスリム化すること
  • 再び太らない体質を獲得(リバウンドを防止)すること


ともすれば「低コスト・高パフォーマンス」を一気に目指したいところですが、社内に浸透した過去からの経緯や慣習に手をつけないままでは、取り組みは「コスト維持・パフォーマンス低下」の結果を招きかねません。食事を極端に制限した減量で健康を害するといった状況に陥らないよう、ITコスト削減に際しては顧客(ユーザー)からみたパフォーマンスの視点を設定することが重要です。システムが肥大化している大きな要因のひとつは、開発・運用者の立場からみた評価にあります。苦労して導入したシステムが実は限られた部署でしか使われていない、出力帳票の使い勝手が悪くユーザー部門が再編集を行っている、といったケースはよくあることです。そこで、まず第1段階として、既存システムをきちんと評価した上でユーザーの業務品質に支障を来たさないように低コスト化を図り、それによって身軽になった状態をベースにシステムパフォーマンスの向上を目指す(第2段階)…という発想の順序が必要です。さらに「太らない体質獲得」への取組み(第3段階)も、減量した状態をいかに維持しながらパフォーマンスの向上を図るかという、コスト高の現在とは異なる前提・基準で検討をすることが重要です。



ITコストは固定費化している場合が多いために、その削減は容易ではありません。しかし、「ITコストは積極的な削減努力なくしては増加し続ける」という認識に立ち、本当に必要なITを見極めた上できちんとした段階を経れば、ITコスト削減とシステム再構築によるITパフォーマンスの最大化が可能です。




今回は、まずITコスト増加のメカニズムとコスト削減の考え方についてお話ししました。
次回は、ITコスト削減の推進方法についてお話しします。


CDIソリューションズ シニアディレクター
森田 克己 (もりた かつみ)